【対談】林義正先生 × 道脇裕先生((株)NejiLaw代表取締役社長)

【対談】道脇先生×林先生
林先生 × 道脇先生

道脇先生:本日は、林先生が開発した発電機をご案内頂けるということで大変、楽しみにして参りました。

林先生:はじめまして。

林先生:発電機の開発は、関電工からの依頼が発端です。燃料は、将来も考えてエタノールっていう選択肢もあったのですが、やっぱりLPGがいいんじゃないかとなりましてね。次に、普通のエンジンじゃ面白くないっていうことで、レーシングエンジンのDNA。レーシングエンジンっていうのは、まずハイパワー、そして低燃費ですね。それから小型軽量、耐久性。デイトナ24時間レースとかル・マン24時間レースで戦うっていうことは、一般公道になおすと50万キロから60万キロぐらいの厳しさがあるんです。そのDNAを入れてみようということで作ったのが、今の急速燃焼エンジンなんです。しかし、発電用のエンジンっていうのは非常に難しい。というのは、車は人間がアクセル踏んでるわけですから、負荷の変化は有限な速さですよね。一方、電気負荷っていうのはどんとくるわけじゃないですか。どーんは微分したら無限大ですよね。そんな負荷変動に耐えるには、どうすればいいかという大きな問題が出てきたわけなんです。それでも何とか対策ができたと。次に、LPガスエンジンですから、ミキサー(LPガスと空気を適正に混合し、エンジンの燃焼室に送り込む装置)が必要なんですけども、小っちゃいエンジンに合うようなミキサーがなかったんですね。だから、ミキサーも開発したんです。大変苦労もしたんです。エンジン開発に一年かかるとしたら、ミキサーを開発するのにもやっぱり同じ一年かかっちゃうんです。

道脇先生:先生がやってこられたエンジン開発とミキサー開発はちょっと領域が違ったわけじゃないですか。それが一発で1年でっていうのはどうしてそれが実現できたのでしょうか?

林先生:それはですね、なんか心理学でいう正の移入効果ですよね。正の移入効果っていうのは、右ハンドルの車に乗ってれば左ハンドルも簡単に乗れるし、大型に乗ってれば普通乗用車とかも簡単に乗れると。あとは0から1を生み出す成功体験。1を10にするのはマンパワーでできるけども、0から1に持ってくるっていう時に、今までの過去の成功体験をものすごい速さで解体結合を瞬時にやっちゃうんですよ。その辺がやっぱり、ものの発想じゃないのかなと思うんです。

道脇先生:確かにそうですね。僕もその意味では何か全く新しいテーマで、一回も触れたことのないものっていうのが、結構クライアントから相談がきて考えるケースってあるんですけども。一番最初に最終的な答えが出てくるんですよ。

林先生:帰納的にですよね。演繹的ではなくて。

道脇先生:演繹的ではなくて、いきなり最初に解が出てきて、あとで分析とかをする項目を考えて、検討項目等を考えて。例えば一つの答えに辿り着くために、その十何種類とか要素があった場合に、これは必要ないかもしれないとか、必要あるかもしれないとか、こことここをこう組み合わせた方がいいんじゃないかとかっていう考察をする訳です。例えば組み合わせ論的に考えると4300万通りぐらいのパターンがありえると。それを全部色んな条件でフィルタリングしていって、最後に絞り込んでいって12個くらいになって。さらにそこから今度は人間が検討、そこに一個一個の要素と重ねていって2つぐらいに絞って、どっちが良いかって、今度は経済的フィルタリングをしたり、勝手にいろんなところで考えていって、技術的にも考えて。一つ残ったものと、その最初に考えたものと一致するっていうのが僕すごくよくあるんですね。先生と多分近い感覚な気がします。

林先生:全く近いと思います。二人ともやっぱりあれですね、F人間。F人間っていうのは、まずフィーリングで物を捕まえて、イディエーションがついてくる。演繹的な人はイディエーションで物を理解しているので最後にだからそうなんだねとフィーリングで理解する。

道脇先生:理屈は後でついてくる。

林先生:イディエーションが後でついてきますね。F人間は。先生のおっしゃる通りのことと私全く同じです。

道脇先生:最初に答えが飛躍して先に観えて人類の知識が現在知の地平にあった時に、、現在知の地平から論理的に積み上げるのと、未来知の天空から降ろすのとが合致するような答えなんですね。

林先生:そうなんですね。

道脇先生:そこはフィーリングなんですね。

林先生:フィーリングですね、Fで捕まえてIで理解する。私全くそうです。

道脇先生:こうだと思う、こっちではないとかっていう感覚ですね。計算とかしないで最初にこれが答えだろうっていう感覚。

林先生:そうですね。

道脇先生:先に見えてきて。あとで何故ならっていう考えで実験したりとか、検証したり分析を加えたりとかすると、大体その答えとほとんど誤差なく一緒だったみたいな。

林先生:発想っていうのはそんな感じですね。

道脇先生:僕の図面は、例えば誤差の書き方、誤差って公差ですね。公差の書きこみって普通数値で入れるじゃないですか。僕の場合はすーっと入ってぷしゅーっと抜ける感じとかっていうふうに書いてある。25.83±じゃなくて25.83くらいって書いて、そのあとに公差の範囲として言葉で書いてある。いわゆる擬音みたいな。今まで指示をしてやってきたのがそうなんです。

林先生:なるほど。

道脇先生:あとはジェスチャーを使ったりとか。

林先生:フィーリング的な、感じですよね。実際の数字では言い表せないようなものがあるわけですね。

道脇先生:数字では表せない、人間の感じる、こっちが空間からつかんだものを、そのまんま人がわかる言葉というか、音に訳したらそうなっちゃうと。その図面とかでぴっちり公差とかで示すと多分うまくいかないんですね。

林先生:JISで決められた割合とか公差でいくと、いかないかもしれないですね。

道脇先生:うまくいかなくて、それを。

林先生:すーっていうこの感じですよね。

道脇先生:すーっと入って、抜くときはぷしゅーって感じみたいなのが。

林先生:私もダンパーは、ぐにゃあがいいんだと。

道脇先生:うんうんうん、わかります、本当にそうなんですよね。数学的な表現にしてしまうとちょっとずれたりとか、感覚が伝わらなかったりとか。図面を見てしか職人さんは造れないじゃないですか。でも、こっちが狙ってるのは数字ではない世界で、もっと滑らかに動いてくれるとか。押し込む時と引っ張る時は違う感じとかっていうのは数字で表せない。あとから測ったら数字になるかもしれないんですけども。

林先生:そういうことですね。エンジンの中には、ウォータージャケットといって、冷却水の通路があるんですけど。メダカをここから入れて、ここから出てくるようなジャケットが望ましいんだと。

道脇先生:最初、何もない時はそこなんですよね。理想形からやっぱり行くべきですし、ですからすっごくわかります。僕はよく講演で、イノベーションってどうしてどうやったら起こせるんだっていうのとか、なかったものを開発するのにどうやったらできるんだっていう話をするのですが、そのありったけの理想を最初に考えて、それを今度実現できる方法を考えるという説明をします。今あるものから積み上げて考えたら、理想には絶対ならないので、改善レベルにしかならないっていう話をすることがありますけど。まさにおっしゃるとおり、メダカが出てくるってすごいわかりやすい。僕にはすごいわかりやすい。イメージとしてだったらこうかな、みたいなものがすぐ浮かんできますね。

林先生:エンジンの中もですね、結構そういうところは滑らかにしたいとか、そういう表現でも書いちゃうんですね。図面中に表せないものですね。そうすると、作る方じゃ困ると言ってくるわけです。特にエンジンの燃焼室。点火プラグから火を飛ばして、そしてフレームフロントがプロパゲートしていく。その過程をその頭の中であれこれしながら。私は燃焼室を彫刻刀で彫ることもあるんですよ。プラスチックで作ったのを荒く削って持ってきてもらって、それを彫るんです。これが望ましいんだって。CADじゃ表せないですよね。無限に切って、三次元的な点を出すしかないんで。その三次元的な点を、初めから頭の中で三次元の無限の点を選んでいるんです。自分でこんな感じだと。滑らかさはこれくらいだとか。そうすると炎が伝わっていくと。ヒューヒュー、こうゆうふうに入って。で、中でゴロゴロ回るであろうと。そんなのはやっぱりフィーリングですよね。

道脇先生:そうですね。

林先生:それをいろいろ試してみて、これがよかったんだと。そこから初めて図面に先生がおっしゃるようになっていくんだと思うんですよね。

道脇先生:そうですね。先生がフィーリングを着想するというか、得られるのは多分すごい神業レベルになってると思うんですけど。神の領域と言いますか、どうやってそこに到達したというか、最初っからそこだったわけじゃないと思うんですね。

林先生:じゃないけど、私はいい加減なこと言ってるんですけどね。物事0から1を想像した履歴があって儲けがおきるんだと。それを生み出すのはフィーリング、センシティビティだと。センシティビティを磨かなくちゃいけないと。例えば、うまいものを食べると。別にうまいものというと、高いステーキを食べるという意味じゃなくて、そのシチュエーションに応じて食べたいものってあるじゃないですか。高地に行ったとき塩むすびがいいなとか、それですよね。博多のとんこつラーメンがいいなとか。そのレベルにおいて一番いいやつ、適してるやつ。シャトーブリアンのステーキがいいわけではないんですよ。ということは味覚っていうのは、非常に高いレベルのバランスを求めてるわけですよ。このシチュエーションに応じて。だからうまいものを食うと、まずそういう高いレベルのバランスを本能的に考えてる。総合的に判断するセンスが身につく。

道脇先生:僕もその今の先生の感覚は非常によくわかるなと思うんです。いいものを扱うって、触れるってことだと思うんですけど。敢えて僕の言葉でそれを表現するとしたら一番いいものを選ぶって感じでしょうか。例えばペットボトルのジュースとかも、数ある中から一番いいもの選ぶとか。パソコン新しくしましょうって言ったときに、もちろん自分にとって一番いいものを選ぶ。値段が高くてもいいものを選ぶ。いいものに触れるって、人でもそうだと思うんです。なんか成し遂げてるとか、なんか長けてるとかっていういい人たち、素晴らしい人達に触れる。なるべくそれを選択すると、物からもいいものが。これとこれがこういう理由で、これいいなっていう感覚が研ぎ澄まされていくと思うんですね。で、一番いいもの、例えば鉛筆でもなんでもそうですけど、一番いい書き心地のものを選んで使ってて慣れて、そうじゃない普通に使われてるものを使った時に、いいものじゃないってはっきりわかる。

林先生:そうですよね.

道脇先生:だからあれがよかったんだっていう。そのギャップを感じたとき、より大きく良さを学ぶというか、何がどうよかったのか。じゃあそうするにはどうやって成し遂げたんだろうと想像が働いてくるというか。そういったことの、普段の繰り返しが感覚を研ぎ澄ませてゆくのかなと思います。特に人が作ったものの場合、魂こもっているのがよくわかります。思想とか意図とか。すごく伝わってきます。自然のものとしてのいいものというよりも、人間を越えたものをまた感じますよね。いい景色だったりとかも又格別にそういう事が有りますよね。すごくよくわかりますね。非常に近い感覚。

林先生:面白いですね。私もびっくりしました。非常によくフィーリング合ってますね。

道脇先生:先生のエンジンがどのようにして生まれたか、とっても共感することができました。本日は、大変ありがとうございました。

林先生:はい、先生と共感でき、本当にびっくりしました。

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